2008/04/24

「縛り代」と「縛られ代」


 緊縛ナイショ話・47

 
 いわゆる「SM写真」「SM映像」の制作現場における私の役割りは、女性(ときには
男性の場合もあるが)の手足、つまり肉体を縄で縛ること、それだけである。
 相手の女性は、モデル、女優、その他である。この女性たちは縛られることによって、
相応の謝礼つまりギャランティをもらう。
 その他の女性というのは、べつにモデルでもなければ女優でもない、たとえば、縛られ
ることに興味をもつふつうのOLが、志願して撮影の現場にやってくる場合がある。
 そういうときでも製作者側はギャラを支払う。彼女たちを写真や映像に撮って、それで
利益を得ているのだから、当然である。
 つい先日も、九州方面からきたOLを、撮影の現場で一日縛った。その女性は翌日には
九州へもどり、またふつうのOLとして勤務する。つまり一日だけのモデルである。
 撮影の現場では、縛る作業に付随して、私も相手の女性に対して、すこし何かしたりは
するが、それはあくまでも付随にすぎない。付随とは、オマケみたいなものである。サー
ビスである。
 オマケだから、やってもいいし、やらなくてもいい。私の気分がのらないときは、よけ
いなことは、もちろんやらない。自分の職務だけを果たす。
 私もまた、撮影が終わったら、「縛り代」をもらう。モデルたちは「縛られ代」、私は
「縛り代」である。
 もちろん「縛られ代」のほうが高額である。縛り代よりも十倍も二十倍も高額である。
モデルは全裸にされて縛られた上に、男優を相手にフェラチオをしなければならず、足を
ひろげてバイブを入れられたり、男のものを体内奥深くまで受け入れてヒイヒイ泣かなけ
ればならない。大変である。私よりお金をたくさんもらえるのも当然である。
 私の本業は文筆業なので、小説、エッセイなどを書くと、原稿料が入る。
 その原稿料を日々の生活費として使い、「縛り代」のほうは、ほとんど手をつけずに銀
行に預けっぱなしにしておいたので、いつのまにかそれがたまって、まあ、これから死ぬ
まで働かなくても暮らせる額になっている。
 とくにシネマジックという制作販売会社はありがたい。私のギャラを毎月まとめて銀行
に振り込んでくれる。それを使わないでおいたのがたまった。つい先日も、
「計理のミスで三年前に支払うべきギャラが落ちていました。改めて振り込んでおきます」
 といって三十数万円振り込まれた。私は撮影の回数など、いちいち数えていないのでわ
からない。誠実な会社である。ありがたい。
 だから私はシネマジックの仕事だけは、どんなに多忙でもかならず引き受ける。誠実な
相手には誠実な仕事でこたえる。
 おや?
 私は何を書こうとしていたのだ。
 そうだ、私を「縛り係」として雇ってくれる人たちのことを書こうと思っていたのだ。
 ついでだから書いておくが、私の役目は撮影の現場における「縛り係」である。
「縄師」などという変にきどった言葉が大嫌いである。女を縛って何が「師」だ、えらそ
うな顔をするな、と言いたい。
「緊縛師」とか「バクシ」なんていう言葉もある。バクシといっても、バクチウチのこと
ではない。「縛師」と書くらしい。どうしても「師」という字を使いたいらしい。女を縛
って、何が「師」か。バクシ、いやだなあ、バクシ。背筋がむずむずしてくる。
バクシという語感が汚くて粗雑だ。まだナワシのほうが耳できくときに柔らかい。



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